シシドのヒトリゴト

きょうも指先に心をこめて

女子高生だった私が、ひょんなことから有名カメラマンと2人でカラオケに行った話

私が女子高生だったころだから、もう10年ぐらい前のことになる。

友達が少なくて、本ばかり読んでいた。

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ある日、古びた本屋の片隅で1冊の写真集を見つけた。インドの写真集で、写真と一緒に文が添えてあるものだった。何の気なしにパラパラめくっていると、あるページで手が止まった。それは、犬が人の死体を食べている写真だった。グロくないようにぼかされているけど、まぎれもなく死体だった。でも犬に食べられる最期って、悪くないのかなとも思った。少なくとも犬の命を生かしてるわけだから。

 

家に帰って、ネットで本の著者を検索した。結構有名なカメラマンみたいだった。メールアドレスが載っていたので、「あなたの本を読んで衝撃を受けました。特に犬が人を食べてる写真はすごかったです、云々」みたいな短いメールを送った。数日たったら返事が来て、「東京で私と会いませんか」って書いてあった。思わず画面の前で「えっ」とつぶやいた。母親に「なんか良くわかんないけど面白そうだから会ってみたい」というと、「そう。携帯で連絡取れるようにしておいてね」とだけ言われた。

 

メールで日時をやりとりして、高速バスで東京へ向かった。ひとりで東京へ行くことはあんまりないし、知らない人と会うわけだから緊張していた。待ち合わせ場所に現れたのは、ちょっとくたびれた感じで、でも目の光が強い、おじさんだった。予約してくれていたお店に行って、豪華っぽい中華を食べた気がするけど、食べたものはあんまりよく覚えていない。「あなたの話をして」ということだったので、私の生まれとか育ちとか、最近の悩みなんかを話したと思う。カメラマンさんは、だまってそれを聞いていて、なんか変な感じ、と思ったのを覚えている。私はただの女子高生なのに、有名な人が、私の話を黙って聞いているなんて。

 

そのあと、「カラオケに行こうか」というので、ちょっと危ない気がした。カラオケは個室だから、怪しいことをされてもわからないし。ただ、なんとなく大丈夫な気がしたので、そのまま一緒にいくことにした。「好きな曲をうたって」というので、椎名林檎がカバーした「Love is  Blind」を歌ったらなんかがっかりしていた。もっとイマドキの曲を期待していたのかな。そのあと、カメラマンさんも2曲くらい歌って、何事もなくカラオケを後にした。

 

「どうやって帰るの」と聞かれ、「高速バスで帰ります」と言ったら、新宿のバスターミナルまできてくれて、バスの発車時間までまた話した。「私はこうやっていろんな人の話を聞くのが好きなんだ」と言っていた。私はいろんな人と会うのは疲れてしまうから、このカメラマンさんとは全然違うな、と感じた。そのうちにバスの発車時刻になって、「今日はありがとう。さようなら」と言われ、手を差し出された。私は「こちらこそありがとうございました」と言って握手をした。バスに乗り込むと、カメラマンさんが手を振ってくれたので、ふりかえしたのを覚えている。その時の話はこれで終わり。

 

 

カメラマンさん、お元気ですか。あの時の女子高生は、都会で大学生になって、彼氏ができて、会社に就職して、女子トイレで泣いたりして、それも辞めて、今はこれを書いています。今も普通の人間です。でも、書きたいことがたくさんあります。こんな私でも、書き続けていたら、いつか見知らぬ誰かが話をきいてくれるかもしれない。「人の話を聞くのが好きなんだ」といった、あの時のあなたみたいに。